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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5838号 判決 1996年9月20日

原告

竹田吉夫

右訴訟代理人弁護士

豊川義明

森信雄

越尾邦仁

小林徹也

被告

日本通運株式会社

右代表者代表取締役

濱中昭一郎

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  原告が被告に対して労働契約上の地位を有することを確認する。

二  被告は原告に対して、平成六年四月二一日以降、本判決確定に至るまで毎月末日限り月額四一万六五二〇円を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、労働契約が成立していたにもかかわらず解雇されたなどとして、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、毎月の賃金の支払いを求めているのに対し、被告が、原告との間には労働契約関係は存在せず、運送下請けの関係に過ぎないものであるとして、これを争っている事案である。

一  当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨及び証拠(<証拠略>)によって明らかに認められる事実によれば、本件事実経過の概要は次の通りである。

1  被告は、主に鉄道利用運送事業、貨物自動車運送事業等を業とする株式会社であり、大阪市港区<以下、略>キャノン販売株式会社大阪物流センター(以下「物流センター」という。)内において、キャノン製品の配送を行っている。

2  原告は、平成二年九月二〇日頃、瀬角保典(以下「瀬角」という。)から被告方における配送及び仕分けの仕事をすることの誘いを受け、同月二六日より、物流センターにおいて、自己の所有する軽貨物自動車を持ち込み、キャノン製品の配送、仕分け等の作業に従事するようになった。

3  瀬角は、三光グループという集団の代表者であり、被告は、三光グループとの間で貨物の配送及び仕分けに関する請負契約を締結しており、形式的には原告は三光グループの一員として取り扱われていた。

4  原告は、物流センターにおいて、午前中は貨物の配送を行い、午後は仕分け作業を行っていた。原告の報酬は、配送作業については配送した貨物に一個当たりの単価を乗じた金額、仕分け作業については一時間当たりの単価に作業時間を乗じた金額とされており、瀬角が、被告から受け取った三光グループ員全員の報酬の中から原告に支払っていた。

5  平成六年三月二二日、被告は原告に対し、以後物流センターにおける作業を認めない旨申し渡した。

二  争点

1  原告の主張

(一) 原告は、平成二年九月二〇日頃、又は遅くとも同月二五日頃、被告との間で、貨物の宅配、仕分け等に従事する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結したところ、本件契約は、性質上労働契約と解すべきである。原告は、形式上は、被告から貨物の配送及び仕分け業務を請け負っていた三光グループの一員とされていたが、原告と被告との間に直接労働契約関係が成立していたことは、以下の事実から明らかである。

(1) 原告は、本件契約の締結に当たり、内容について交渉する余地はなく、瀬角を通じて被告より提示された勤務条件に従うか否かの二者択一を迫られた。この点で、契約締結過程における対等性を前提とする請負とは明らかに異なる。

(2) 原告は、午前八時(当初は午前七時三〇分)の出勤が義務づけられ、配送業務及び仕分け業務においては、被告担当者から瀬角を介することなく逐一作業内容について指示を受けており、業務諾否の自由は全くなく(ママ)かった。特に仕分け作業においては、原告は被告の従業員の配送分も含めすべての貨物の仕分け作業を、被告担当者の指示に従って行っていた。このように、原告は被告の組織秩序に完全に組み込まれ、その支配下にあったのであり、原告と被告の間には実質的な使用従属関係が存在した。

(3) 原告の報酬は、より長時間の作業を要する仕分け作業について時間給とされていたほか、配送といえども、仕分け作業中に緊急に配送を命じられたものについては、個数計算されず、仕分け作業の時間給に吸収されてしまっていた。したがって、原告の報酬は全体として見れば賃金としての性格を有していた。

(4) 三光グループは、原告らへの賃金支払いの受け皿として会計処理の名目上作られたに過ぎず、全く実体のないものであり、その代表者とされる瀬角は、実質的には被告の労務管理者として位置づけられる存在であった。被告と三光グループ間の請負契約は、被告と三光グループの構成員各自との間に存在する労働契約の存在を隠蔽するための偽装に過ぎない。

このことは、原告が物流センターにおける作業から排除された経緯に照らしても明らかである。すなわち、平成六年三月二二日、物流センター内の被告事務所における責任者である北浦一秀課長(以下「北浦」という。)は、被告の従業員及び三光グループ員を集め、その場で三光グループが解散すること、希望者は同様の作業をしている大阪真正に移籍してもらってよいが原告についてはその移籍を認めないことを宣言し、原告が「首ですか」と尋ねたところ、「そうだ」と答えた。これは、被告がその従業員である原告を解雇したものに他ならない。

(二) 被告による原告の物流センターからの排除は解雇にほかならないところ、右解雇は、原告が瀬角の中間搾取及び同人と被告との癒着を追及したことによるもので、何ら合理的な理由がなく、解雇権の濫用によるものであって無効である。

(三) 仮に、本件契約が請負契約であるとしても、その実質は限りなく労働契約に近いものであるから、その解約には解雇権濫用法理が適用されるべきであり、被告による解約は認められない。

2  被告の主張

(一) 原告と被告との間には直接の契約関係は存在せず、原告は被告と小口貨物の運送に関する請負契約を締結していた三光グループの一員として、平成二年九月頃から物流センターにおける運送に下請業者として携わっていたに過ぎない。このことは、次の各事実からも明らかである。

(1) 原告は、軽貨物運送事業の届出を行っており、自己所有の車両に「三光グループ・竹田運送」と自ら表示して物流センターにおける配送業務に携わっていた。

(2) 被告は、原告を瀬角から三光グループの一員として紹介されただけであって、原告に対し、採用に当たっての面接や労働条件の明示を全く行っておらず、履歴書の提出も受けていない。

(3) 原告には指定された出退勤時間や拘束時間はなく、仕事の内容や割り振りのような基本的な業務に関する指示・命令もすべて瀬角が行っており、被告は関知していない。

(4) 原告の報酬は、貨物配送の個建請負料金と仕分け作業の時間建請負料金によって定められており、所得税や社会保険料等の控除もされていない。その支払も三光グループの請求に基づいて行われていた。

(二) 被告が原告を排除した経緯は次のとおりである。すなわち、三光グループ内で原告らと瀬角の間に内紛があり、瀬角が平成六年三月始め頃から物流センターに来なくなったことから、三光グループへの業務の依頼が不可能になった。そこで、被告は、三光グループへの業務請負を解消し、グループ員については同様の作業を行っていた大阪真正に紹介したが、原告については、同人が北浦に対し暴言を吐きその信用を失墜させたことから、大阪真正への紹介をしなかったものである。

3  本件の主たる争点

(一) 原告と被告との間に労働契約が成立していたか否か。

(二) 原告と被告との間に請負契約が成立していたか否か。

三  証拠

本件における証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三判断

一  当事者間に争いのない事実に、証拠(<証拠・人証略>)を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  被告と三光グループの関係等

(一) 被告は、物流センターにおいて、全国各地への路線便及びチャーター便によるキャノン製品の配送を請け負っていたものであるが、路線便のうち、大阪府下及び阪神間の小口貨物及び一部大型コンピュータ等のチャーター便については、配送を三光グループ、大阪真正など複数の運送業者に請け負わせており、平成六年三月一日現在、これら下請業者の車両は三光グループのものを含めて二二台であった。これに対し、被告の車両は一〇台ないし一五台であり、路線便による全国配送及び大型貨物のチャーター便による配送を行っていた。また、被告は、これら配送業務の前提として、翌日配送する貨物を配送方面別に仕分けする作業も行っており、その作業は、毎日午後一時頃から被告社員二名、三光グループの者一、二名で、同三時半頃から被告社員一〇ないし一五名、大阪真正の者一名及び三光グループの者四ないし七名程度で行われていた。

(二) 三光グループは、平成二年八月頃、それまで物流センターにおける被告の小口配送及び仕分け作業を請け負っていた高山運送の撤退に伴い、その下請けであった瀬角、福原司朗(以下「福原」という。)及び髙橋正泰(以下「髙橋」という。)の三名が被告から各自直接配送及び仕分け作業を請け負うこととなった際に、瀬角を代表者として結成されたものである。当初は請負契約書は作成されなかったが、被告の社内監査で問題となったことから、平成四年三月一五日になって初めて被告と三光グループとの間の作業請負契約書が作成された。

(三) その後、三光グループの担当する配送地域の拡大に伴い、瀬角が新たな運送業者を順次三光グループに加え(原告もその一人である。)、平成六年三月頃には三光グループの名の下で作業に従事する者は原告を含め九名であった。三光グループに加わる者の人選はすべて瀬角が行っており、被告が関与することはなかった。

三光グループ員は、午前中は小口貨物の配送に従事し、午後一時頃から一ないし二名、同三時半頃から四名ないし七名が被告の社員らと共に翌日配送する貨物の仕分け作業に従事していた。三光グループの受け持つ配送地域は大阪市内(浪速区以南を除く)、吹田市及び東大阪市であったが、グループ内の割り振りは瀬角が行っており、被告が関与することはなかった。仕分け作業は、被告の社員と三光グループ員らが混然一体となって行い、それぞれの担当地域とは関係なくすべての貨物を配送地域別に仕分けするもので、その内容は単純なものであったが、被告の副班長であった谷村勝二(以下「谷村」という。)から作業上の指示がされることもあった。また、原告ら三光グループ員は仕分け作業に当たり、被告所有のフォークリフト等の器機を使用していた。

(四) 瀬角は、当初は配送も行っていたが、間もなく仕分け作業にのみ従事するようになった。もっとも、新たに加入した経験の浅い運転手の添乗指導を行うこともあった。また、瀬角は、三光グループ員の配送地域の割り当て等の他に、同グループ員の配送伝票の処理、報酬の計算等の作業を、物流センターの被告事務所において、被告の機器を用いて行っていた。

三光グループは、物流センターにおける業務以外の業務は全く行っていなかった。

(五) 三光グループは、作業所における事故については被告に対し責任を負うことになっており、平成五年七月頃三光グループの佐伯正弘が物流センターのシャッターを損傷した際には、同人及び瀬角がその修理代を全額支払った。また、原告も平成四年頃、ガラスを破損してその修理代を弁償したことがあった。

(六) 被告が三光グループに支払う請負代金は、午前中の配送作業については、地域別に定められた貨物一個当たりの単価に個数を乗じた個建料金とされており、原告の担当していた大阪市中央区の場合は、一個当たり二七〇円であった。午後の仕分け作業については作業員一人につき一時間当たり一五〇〇円の時間建料金とされていた。

三光グループ員の報酬は、瀬角が右基準に従って計算して毎月被告に請求し、被告から全員の分をまとめて受け取り、給料支払明細書と共に各人に渡していた。瀬角は、その際一定の金額を積立金又は経費名目で差し引いていたほか、特定のグループ員からマージンを取得することがあった。

(七) 被告は、三光グループに対し、物流センターにおける小口貨物の配送及び仕分け以外にも、貨物の配送、引越作業の補助などを要請することがあった。このような場合には瀬角が三光グループ員の中からこれらの作業に従事するものを指名していた。その報酬は、別途支払われていた。

2  原告が三光グループに参加することとなった経緯及び原告の日常業務等

(一) 平成二年九月二〇日頃、原告は髙橋の紹介で阪神野田駅近くの焼鳥屋で瀬角と会い、「キャノンの仕事をするか」と誘われた。その際、瀬角は仕事の内容は午前中は宅配、午後は貨物の仕分けであり、月給は四〇万円をくだらないと説明した。原告はこれに応じ、同月二五日被告の中津の営業所において、瀬角が日通の担当者に対し、「今日から仕事をします。」と原告を紹介した。

原告は、その翌日より物流センターにおいて配送及び仕分け作業に従事するようになった。

(二) 原告の日常業務等はおおむね次のようなものであった。

(1) 原告は、同人所有の軽貨物自動車を伴って物流センターに午前七時三〇分頃集合し(なお、後に午前八時に変更された。)、前日に仕分け作業の終了している担当地区の配送貨物を右車両に積み込み、配送を行う。朝の集合時刻は被告の指示によるものであったが、遅刻したとしても報酬面で不利益があるわけではなかった。原告は瀬角の指示により大阪市中央区の配達を担当していたが、配送の経路について被告又は瀬角から特に指示を受けることはなかった。原告の一日の配送貨物数はおおむね七〇ないし一〇〇個程度であり、午前中に配送を終えるのが通常であった。

原告は、配送が終了すると、配達伝票をまとめて物流センターの被告事務所内にある机の引き出しに入れておくことになっており、これを瀬角がまとめてコンピュータに入力していた。配達先が不在であった場合には、不在伝票を被告の係員に提出していた。

(2) 原告は、軽貨物運送事業者としての届出を行っており、その所有する軽貨物自動車には、「三光グループ・竹田運送」の表示がされていた。右車両の燃料代、修理代、車検代及び保険料等はすべて原告が支払っていた。

(3) 午後は、三時半頃から翌日配送する貨物の仕分け作業を行うが、貨物の量によっては午後一時頃から始めることもあった。作業は、貨物の多少にもよるが、おおむね午後六時から七時頃には終了し、その後は自由に帰宅することができた。作業終了後、原告は、所定の用紙に仕分け作業に従事した時間を記載していた。

原告は、当初は仕分け作業を毎日行っていたが、後に週に二日は行わなくなった。また、原告は、配送作業が終了した後仕分け作業が始まるまでの間喫茶店などで自由に時間を過ごしていた。

(4) 原告は、毎月の報酬を瀬角から給料明細と共に受け取っていたが、同人は被告から受け取った請負代金の中からマージンを取得しており、原告に対して支払われていたのは配送作業につき一個当たり二二〇円、仕分け作業については一時間当たり一三五〇円の計算による金額であった。報酬から税金及び社会保険料の控除は行われていなかった。

(5) 原告を始めとする三光グループ員は、平成三年頃から、瀬角から配布されたポケットベルを常に携帯しており、瀬角や谷村らから時折貨物の配送に関して指示を受けていた。ポケットベルの使用料金は、瀬角が原告らに支払う報酬の中から差し引かれていた。

また、原告は、被告のネームの入った制服を着用していた。

3  原告が物流センターから排除されるに至った経緯

(一) 原告は、かねてから瀬角がマージンを取得していることに不満を持っていたが、平成六年二月頃になり、瀬角に対し、マージンの取得をやめるように要請し、被告の北浦課長にも同趣旨の要請をした。しかし、瀬角がこれに応じなかったことから、原告及びこれに同調する三光グループ員と瀬角の間に紛争が生じ、瀬角は物流センターに出て来なくなった。

(二) 北浦は、同年三月二二日、被告の従業員及び原告ら三光グループ員を集め、三光グループが解散する旨及び希望者は同様の作業をしている大阪真正に移籍してもらって良いが、原告については、同年四月二〇日限りで関係を終了させる旨述べた。これに対し、原告が「首ですか」と尋ねたところ、北浦は「そうだ」と答えた。

二  以上の事実に基づき、まず、原被告間に労働契約が成立しているか否かについて検討する。

1  原告は、原被告間には使用従属関係が存在する旨主張するので、まずこの点について判断する。

(一) 労務提供者と受領者の間に使用従属関係が存在するというためには、労務受領者が労働時間及び労働内容を支配、管理しており、労務供給者においてこれらを自由に処分することのできない状況にあることが必要であると解すべきところ、本件においては、原告は、朝の出頭時刻は被告から指示されていたものの、終了時刻については特に定めがなく、仕分け作業が終了すれば自由に帰宅することができたこと、朝の出頭時刻の定めも事実上のもので遅刻したとしても報酬等の面で不利益を受けることはなかったこと、配送作業が終了してから仕分け作業に入るまでの間は時間を自由に使うことができたことは前記認定のとおりであり、また、(証拠・人証略)によれば、三光グループ内においては、仕分け作業に従事するかどうかはある程度各人の裁量に任されており、原告が最近週に二日は午後の仕分け作業に従事しなくなったのも三光グループの中で自主的に決められたものであって被告の指示によるものではなかったことが認められ、さらに、原告が仕事を休む場合に被告に届け出ていたような形跡が窺われないこと等に鑑みると、原告は、作業時間及び作業内容についてある程度自由に決定しうる立場にあったというべきであり、これらを被告が支配、管理していたものと認めることはできない(なお、原告は、仕分け作業に従事した時間を所定の用紙に記入していたが、これが被告が行わせていたものであることを示す証拠はなく、かえって、<証拠・人証略>によれば、これは報酬の算定をするために瀬角が行っていたものと推認されるから、これをもって被告が原告の労働時間を管理していたことを示すものとはいえない。)。

以上によれば、原告の物流センターにおける配送及び仕分け作業が使用従属関係のもとにおいて行われていたものと評価することはできず、かえって、原告が運送事業者としての届出を行っており、配送には「竹田運送」と表示された原告所有の軽貨物自動車(事業用ナンバー)を使用していたこと、右車両の諸経費はすべて原告が負担していたこと、配送作業の報酬は完全な出来高制であったこと等に鑑みると、原告は、物流センターにおける配送及び仕分け作業を独立した事業者として行っていたものと評価すべきである。

(二) もっとも、仕分け作業は、被告の作業員らと混然一体となって行われていたものであり、自らが配達する貨物だけを仕分けしていたものではないこと、作業上の指示が被告から与えられることがあったこと、被告所有の器機を使用して行われていたこと、その報酬が作業に従事した時間によって決定されていたこと等の事実に鑑みると、これが被告の指揮監督下における労務の提供としての性質を有していた面もあながち否定できない。しかしながら、前記認定の事実関係によれば、仕分け作業についても、一定時間従事することに重点があったわけではなく、あくまで一定量の貨物を仕分けすることに重点があったと考えられ、また、仕分け作業は翌日の配送の準備として行われるものであり、配送に付随する作業であって、報酬に占める割合も少なかったこと、そもそも仕分け作業に従事するかどうかは三光グループ員の中で自主的に決定されていたこと(原告は、仕分け作業に従事するかどうかについて諾否の自由はなかった旨主張するが、<証拠・人証略>によれば、仕分け作業に従事するかどうかは三光グループ内においてかなり各人の自由に任されていたことが認められるから、右主張は採用できない。)等をあわせ考慮すれば、右仕分け作業における作業の実体をもって直ちに原告が被告の指揮監督のもとに労務を提供していたと評価することはできない。

また、原告が常時ポケットベルを携帯させられ、配送中にも被告又は瀬角からポケットベルによる指示がされることがあったことは前記認定のとおりであるが、(証拠・人証略)によれば、この指示は必ずしも頻繁に行われていたものではなく、配達を急ぐ顧客がいるような場合に例外的に行われていたものであることが認められるから、これをもって原被告間の使用従属関係を示すものであるとはいえない。

さらに、原告が物流センターにおける配送及び仕分け作業の他にも配送や引越の助手等の作業を行うことがあったことについても、(証拠・人証略)によれば、これらの作業はそれほど頻繁に行われていたものではないことが認められ、また報酬は別途支給されていたというのであるから、これによって前記認定が左右されるものではなく、また、原告が被告の制服を着用していたことについても、(証拠・人証略)によれば、これは防犯上キャノンから要請されたためであり、その費用も三光グループが負担していたことが認められるから、やはり前記認定を左右するものではない。

2  以上に述べたところによれば、原告は被告との間の使用従属関係に基づいて労務を提供していたとはいえないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告と被告との間に労働契約が成立しているとする原告の主張は理由がない。

三  次に、本件契約が請負契約であることを前提とした原告の予備的主張について検討する。

1  原告は、請負契約たる本件契約が原被告間に直接成立したものであると主張する。しかしながら、被告と三光グループの間に請負契約書(<証拠略>)が交わされていること、原告が物流センターにおいて作業に従事するに至る経緯を見ると、人選はすべて瀬角が行っており、被告が関与していたことを窺わせる証拠はないこと、原告の配送地域はすべて瀬角が決定していたほか、原告が仕分け作業に従事する曜日及び時間も三光グループ内で決められたものであって、被告は、三光グループが一定の業務を行う限りは、原告が実際に業務を行っていたかどうかについて関心を有していなかったものと認められること等に照らせば、本件契約は原告と三光グループ又は瀬角との間で締結されたものと認めるのが相当であり、原告と被告との間に直接の契約関係を認めることはできない。

2  これに対し、原告は、三光グループが会計処理の名目上作られた全く実体のないものであるから、原告と被告との間に直接の契約関係を認めるべきであると主張する。確かに、三光グループは、当初は瀬角、福原及び髙橋の三名の運送業者によって構成されていたところ、被告はもともと右各人と直接請負契約を締結していたこと、同グループがグループとしての固有の組織や活動を有していたことを窺わせる証拠がないこと、原告が瀬角から誘われた際にも特に三光グループの下請である旨明示された形跡がないこと等に照らせば、三光グループの存在はかなり形式的なものであったことは否定できない。また、平成六年三月に被告が原告を排除した経緯に照らせば、被告は三光グループに対して強い影響力を有しており、事実上その解散を決定し得る地位にあったと解されなくもない。

しかしながら、瀬角が原告ら三光グループ員の配送地域の割り振りを決定していたこと、グループ員の報酬からマージンを取得していたこと、三光グループ内の経験の浅い運転手に添乗指導を行っていたこと等に鑑みると、少なくとも瀬角には原告ら三光グループの構成員との関係で契約当事者としての実体がなかったとはいえないし、三光グループが起こした事故はその責任で処理されていたことは、同グループが一応被告とは区別された独立の事業者として意識されていたことを示すものということができる。また、瀬角は三光グループの当初からのメンバーである福原についてはマージンを取得しておらず(<人証略>)、被告と直接契約関係にある当初のメンバーとその後に加入した原告らとは区別して扱われていたことを窺うことができる。さらに、本件において三光グループが解散に追い込まれたのは、瀬角が出て来なくなったことが主たる要因であったと見ることができるから、必ずしも被告が三光グループを解散させたと評価することもできない。これらの点を総合すると、三光グループ又は瀬角が全く実体のない形式的な存在であったとまでは断定できず、原被告間に直接の契約関係を認めるには至らないというべきである。確かに、瀬角は運送事業者としての届出をしていたかどうかさえ明らかでなく、近年は配送に携わることもなく、仕分け作業を行う傍ら被告の事務所において伝票の整理等の作業を行っていたものであり、事実上被告と一体化していた面がなかったとはいえないが、それを超えて、被告が瀬角を従業員として処遇していたり、あるいは同人に原告と請負契約を締結する権限を与えていたような事実は本件全証拠によっても認められないから、右事情はいまだ前記認定を左右するには足りないというべきである。

3  したがって、請負契約が原告と被告との間に締結されたものであることを前提とする原告の予備的主張も理由がない。

四  以上の次第であるから、原告の請求は理由がなく、棄却することとする。

(裁判官 谷口安史)

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